「いつもと逆の手でドアを開けてみろ。ほら、世界が変わったぞ!」
小学生の頃に通っていた塾の先生が、よくそんなことを言っていました。
眼鏡をかけていて髪がくるくるのおじさん先生。
多分、専攻は古文だったと思います。
いつも課題を超特急で終わらせては、平安時代や戦国時代の怖い怪談話を聞かせてくれました。
そんなわけで、思春期に差し掛かった子どもたちにも人気の先生だったのですが……
毎度授業の最後に聞かされる「世界が変わったぞ!」のくだりでは、先生の勢いと迫力にみんな声を上げて笑っていました。
『ちょっとおかしな先生だな』
私も、子ども心にそう感じていました。
けれども、あのときの先生の言葉はずっと記憶の何処かにあって、この歳になっても鮮明に思い出せるのです。
そして、ふとした時に考えてきました。
『先生は何を伝えたかったんだろう?』
『みんなに散々笑われていたのに、どうしてあんなに一生懸命、あの言葉を繰り返していたんだろう。』
ちょっとおかしな先生だっただけかもしれません。
いや、自分が大人になってみると、だいぶおかしな先生だったような気もします。
先生の熱弁と子どもたちの笑い声はちぐはぐで、お互いに空気を読む気がないとすら感じられるほどだったのです。
以前、“かりずまい”の記事(「頑張らずに日々を楽しむ20の選択〜習慣を変えると暮らしは華やぐ〜」)を書いたときにも、私は先生の言葉を思い出していました。
それで、ようやく先生の言わんとしていたことにいくつか思い至ったのです。
小さなきっかけで、人生が変わることがある。
習慣を変えると、見える景色が違ったものになることがある。
現状を変えたいなら、いつもと違うことをやってみるといい。
なんとなくで生活するのではなく、意識して何かをやってみよう。
人は、自分から変わっていくものなのだ。
先生が、どういった経緯であの演説をしていたのかはわかりません。
教育者として子どもたちに伝えたいと常日頃考えていたのかもしれないし、世界を変える必要性を感じる出来事があったのかもしれない。
「いつもと逆の足から靴を履け」
「いつもと逆の手でドアを開けてみろ」
「ほら! 世界が変わったぞ!」
先生はそればかりで、言葉の意味を教えてくれることはありませんでした。
大笑いする子どもたちに、大袈裟な身振り手振りをしながら、繰り返し繰り返し同じような演説をしていました。
塾という勉強をするためだけの教室で、勉強だけじゃない人生について教えようとしてくれたことに、私はとても感謝しています。
2.塾の先生(古文)
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