30年以上生きていれば、自分の常識に全く当てはまらない人材に出会った経験のひとつやふたつ、ありますよね。
コラボカフェやSNSでのグッズ交換時など、推し活でもかなりエンカウントした記憶があります。
しかし、今回は推し活以外で出会った人の話をさせてください。
(身バレ防止のため、若干のフェイクを混ぜております。)
私は大学時代、ある習い事に通っていました。
そこには、自分と同じくらいの年齢から若めの社会人まで、様々な人が通っていました。
あるとき、同じ時間に通っている生徒全員で、ひとつの作品を作る機会がありました。
しかし進み具合が芳しく無く、いつも穏やかな初老の先生に、厳しく叱られてしまいました。
私達は「あの先生にあそこまで言わせてしまうなんて」と反省し、近くの公園に全員で集まって今後の計画を練り直すことにしました。
すると、どこで聞きつけたのか先生が顔を出してくれて、私たちにアドバイスを始めました。
『優しい先生を怒らせるほど不甲斐ない私たちに、こんなに丁寧に指導してくださるなんて……』
誰もがそう思い、涙ぐむ生徒まで現れたときです。
ひとりの女性がくるりと背を向けて、ベンチに置いた自分の荷物を漁り始めました。
ハンカチでも取りに行ったのかと、私達は気にせず先生の話に耳を傾けます。
しかし、戻ってきた彼女の手にはコンビニ弁当がありました。
それも、サラダパスタのようなお椀状のものではなく、幕の内弁当のような平たいもの。
そして彼女は、およそ立ったまま食べるようなものではないそれを、何食わぬ顔で食べ始めたのです。
その時の先生の表情は、穏やかではありましたが、何か別の生き物を見ているようでした。
私達も何が起こっているのか理解できず、彼女を少し見つめたあと、互いに視線を交わし、すぐに先生に向き直りました。
私達は聞いていますよ、という姿勢を先生に見せたかったのかも知れません。
先生もその意を汲んでか、話を続けてくれました。
彼女はミス〇〇に選ばれるほど美人で、人当たりもよく、大学の課題にも習い事にも真面目に取り組むような人でした。
半年以上同じ時間に通っていましたが、一緒に過ごしていて嫌な感情を抱いたことはありませんでした。
先生に対しても、どちらかというと礼儀正しく、時々ちゃっかり甘えるような、好意的な態度を取っていたはずです。
そんな人が、なぜあの状況で幕の内弁当を食べ始めたのか。
小声で「お腹空いちゃって〜」と言っていたようにも聞こえたけれど、だからといってなぜ食欲を優先したのか。
眠気や排泄のように我慢できないものでもないでしょうし、脱水症状など何かが不足している様子でもありませんでした。
彼女にとって、お説教やご指導の最中に食事をとることは常識だったのでしょうか。
そして、人は意味不明な光景を目の当たりにすると、何も言えなくなるものですね。
あのとき、誰ひとりとして「今食べちゃダメだよ!」なんて声をかける人はいませんでした。
今でも、あの現実感を失った奇妙な空気を、ふと思い出すことがあります。
111.人生で出会った意味不明な人
その他

コメント