~訓練の形骸化に抗う「帰宅と情報収集」を見据えた防災論~
前回のつづきです。
「被災時にスマホも財布も持たずに避難しろという風潮はおかしいのでは?」という意見について。
私はこれに結構賛同しています。
と言うか、数年前に会社の避難訓練に対して「スマホを持ち出さないことは現実問題としてどうなのか」と意見したことがあります。
不審者に対する避難であれば、何も持たずに逃げるというのは正しいかもしれません。
火でもつけられない限りは、そこに置いてあるものが使えなくなるわけではありませんから。
また、あれもこれも持ち出そうというのも集団生活での避難行動においてよろしくありません。
ですが、自宅外で避難した先に必ず待っているのは帰宅なのです。
これは非常に難しい選択で、もう目の前に火事が迫っているとか、津波が迫っているとかそういう状況なら命より大切なものはありません。
パニック映画でサメに食べられそうになっているのにスマホに手を伸ばす登場人物はいないでしょうし、いたら確実に食べられてしまいます。
しかし、火災にしても水害にしても地震にしても、避難したあとの私たちは帰宅しなければならないのです。
今の時代、スマホも財布も持たずに帰宅できる人はどれくらいいるでしょうか。
震災後は公共交通機関が無料になるとか、全員が徒歩圏内に勤めているのであれば話は別ですが、そんなことはありません。
徒歩で帰るにしても途中で飲食が必要になったり、応急処置のため、体温を失わないため、身の安全のため、お金が必要になる場面は出てくるでしょう。
そもそも購入できる状況ではないかもしれませんが、それでもお金があるかないかで帰路の精神衛生は大きく変わってきます。
もしかすると、適切な行動を取れなかったが為に人災に見舞われたり、災害関連死に至ることもあるかもしれません。
また、今回のイオンモールのような場所には、その日限りの派遣さんや、遠くから荷物を運んできた人も多く働いています。
私自身、学生時代に田舎のショッピングモールで試食販売の派遣をしていたことがありました。
そのときの私は、スマホがなければ最寄りのバス停すら何処かわかりませんでした。
さらに、今回爆発の直前までイオンモール内で待機していたものの「異臭がする」とか「火事が起こっているようだ」という情報を得たことで、慌てて離れたという投稿が散見されました。
震災直後のため信憑性は曖昧だったかもしれませんが、それでも情報を得たことで命が救われたという人が大勢いたのです。
スマホを持っていなければ、そんな情報も集めようがありません。
通信状態が悪く情報が入らなければ、それはそれで現場を離れる理由になります。
避難から帰宅までの間に家族に連絡を取る人もいるでしょう。
お子さんが保育園や学校に通っていれば、それらの施設から保護者宛に連絡が入るでしょうし、どれくらいで迎えに行けるのか伝える必要もあるでしょう。
家でひとりで待つ家族がいれば、──互いに健康な成人であれば非常時は仕方ない部分もありますが、そうでなければ迅速に──無事を確認するはずです。
これらの連絡が取れないことは、本人や周囲の人に多大な労力をかけてしまうかもしれません。
それから、被災生活を送るなかでもスマホや財布がないと非常に不便を強いられることになります。
保険証──マイナンバーカードがなければ、病院での手続きにも時間がかかるでしょうし、持病があれば命に関わります。
繰り言になりますが、本当に目前に火や水が迫っているのであれば話は別なのです。
しかし、避難訓練まで行っていて毎度担当者は点呼用の非常用リュックまで持ち出す訓練をしているのに、従業員はスマホを置いていけというのは現実に即しているとは言えないのではないでしょうか。
スマホは現代人にとってライフラインです。
「取りに戻るな」と言うのは簡単ですが、私には非常時の精神状態を過信した意見に聞こえます。
スマホも財布もない状態で自宅外に放り出されることも、人間にとっては一種の災害なのです。
本気で備えるなら、スマホと財布と防災ポーチが入る個人用の非常用持出袋を避難経路に置いておき、訓練時から持ち出すようにするのがいいのではと常々思っています。
224.被災時の手ぶら避難は正しいのか?
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